菌糸ビンの基本

 菌糸ビン飼育で問題となるのは、見た目だけで菌糸の状態を判断するという間違いが多い様に思えます。<幼虫が動き回る。>、<居場所の周りを食べない。>、<臭いがおかしい。>、<ビンの重さがとても軽くなってきた。>等、思い当たることは沢山ありますが、その時の状態を常に考慮に入れて対処しないと失敗することがあります。

 ”ビンの中は狭い世界なので、幼虫は自由に居場所を選べない”ということを常に頭に入れておくことが大切だと思います。

 菌糸ビン飼育の国産1年一過型と2年一過型とでは、前蛹に成る時の重さの減り方が違うので成虫の大きさが異なります。
 例えば、幼虫から前蛹に成るときの重さの減り方は1年一過型で約3g〜4g位、2年一過型で約1.5g〜2g位が目安で、1年一過型の幼虫25gは最大で75mm位ですが、2年一過型だと78mm位になります。
 また、前蛹から蛹になる時は、1年、2年関係なく1.5g位重さが減る様です。


 成虫の最終的な大きさは血統を無視できませんが、水分の多い餌を長くたくさん食べさせて、同化量を増やし、縮みを少なくすれば良いのであり、”
水分が多いと縮む”と言う考え方は評価の仕方に誤りが有ります。この事は消化管内の状態が影響していますので”木材腐朽菌(バクテリア)の役割”を意識して下さい。
 更に、水分量の違う菌糸ビンを季節と幼虫の年齢・状態によって使い分けると同時に3齢幼虫の”縮み”は食欲にも関係があると思われますので、代謝の関係を改善するつもりで”
塩水の使用”を試みています。
 効果が有るか無いかを知るには、まだ時間が掛かりますが、塩水についての事例は他の分野で何点かある様なので期待しています。
 
塩水の使用については、”究極のページ”を読んで下さい。
 参考までに、山梨産オオクワガタは、蛹の重さで24g位が80mmの境目に成ります。山梨産
23.5g(蛹の重さ)は2頭共に78.5〜79mmでした。
 私たち人間にもベビーフードが有るように、幼虫の大きさと年齢を考慮して食べ易いチップの大きさは考える必要があります。
 環境適応能力の低い若齢用虫は消化管の状態を考慮して、2齢中期までは体内バクテリアの関係で細目の方が良い結果がでると思われます。
 粗目の菌糸ブロックで状態の良い物を良く乾燥させ菌糸を殺し、ミキサー等で細かく粉砕して、使用する際に加水すれば栄養価が高く、且つ幼虫に影響を与えないベビーフードに成ります。
 しかし、カビが生え易く、雑菌等により腐り易くなりますので、褐色腐朽菌(腐葉土等にいるバクテリア等)が繁殖した分解マットを混ぜる必要があります。加える水の量は、乾燥したチップの重さに対して50%〜55%位で若齢ほど水分量を多くして下さい。
 尚、水を入れ過ぎると水が空気を遮断して腐敗しますので注意して下さい。
 年齢に応じて菌糸ビンの種類・内容を変えることは不利ですが、菌体が同じならメーカーが異なっても影響は無いので、3齢からは菌糸の寿命も長く安定している粗目を採用しているメーカーの菌糸ビンを使用した方が良いと思います。
 なぜなら、チップが細かいと幼虫が攪拌した際、その後に空気の含有量が少なく菌糸の腐朽が見られないからです。
 チップの大きさは水分の保持と菌糸の腐朽に大変影響します。
 水分量の少ない菌糸ビンは、菌糸の腐朽が遅く、時には幼虫が嫌がって入らない時があり、幼虫がビンの中を動き回った跡に1〜2日で菌糸が出てこない時は水分量が少ないと思われます。
 若令ほど水分量を多くした方が良く、菌糸の力を弱めてあれば、卵の状態で菌糸ビンに落とし込んでも大丈夫で、なるべく早く栄養価の高い餌を与えることにより更なる大型の期待ができます。
 如何なる時でも、”
体内バクテリアの存在”は、意識して使用して下さい。

 購入した菌糸ビンの水分量が少ないと思われる時には、菌床を攪拌して、小瓶で約30cc位、大瓶で100cc位を注射器などを使用して水が空気に触れないように補給してやることが必要です。
 しかし、乾燥して菌糸が休止しているところへ水を加えると菌糸が活発になり、かなり酸素を消費するので酸欠により幼虫が死ぬ恐れがあるので、加水後1週間位経ってから使用してください。確かでは有りませんが、補給する水はマグネシュウム成分の多い天然水(エビアン?)がカビの発生が少なく良い様に思えます。但し、硬度に注意して下さい。
 もし、攪拌したことによりカビが心配なときは、冷蔵庫の野菜室に5日間位入れて置き、菌糸がうっすらと出てきたら取り出して暖かいところに3〜4日置いて下さい。温度の変化を与えることにより菌糸の腐朽が大変速くなります。
 更に、水分量が多い大ビン1本に若齢幼虫を10匹位入れて選別すれば経済的で確率も上がります。1つのビンに何匹も入れると共食いすると言われていますが、私たちが経験した限りでは有り得ないと思います。
 菌糸ビン飼育で二年一過型にするには、水分量と温度が決め手になります。乾燥気味のビンより多少湿っている方が良いのですが、温度が高過ぎると水分量に関係なく殆どの幼虫は一年一過型になってしまうので、菌糸ビンの何処に居るかを観察しながら水分量を調整すれば、かなりの数のオスが二年一過型になる筈です。
 幼虫は相対的に温度を感じて変化するので、温度差を無くして一定の状態を保つことが必要で、冬に幼虫を冷やすと春暖かくなった時に最低体重のまま羽化する確率が高くなってしまうので、菌糸の成長に調度良い平均22度位を維持して冷やさないことが肝心です。
 水分量は少し多目で、あまり高くない温度を一定に保つことが要件となります。

 羽化させる為には最大体重の時に通常飼育温度より4度位低い所に1ヶ月間置いて、羽化のスイッチを入れてから元の飼育温度に戻す必要があります。
 温度の変化を与えないと羽化しないで老化が始まるようで、3年一過型はその殆どが死んでしまいます。2年一過型が限界のような気がします。

 菌糸ビンの状態が常に悪いと、幼虫はビンの中に長く滞在することを嫌って早く成虫に成ってしまうので注意して下さい。
 菌糸ビン2年一過型の要素として、詰め具合による堅さがかなり影響するのではないかと思うようになりました。なぜなら、材飼育ではメスも2年一過型になりに、温度と水分だけでは説明できない矛盾点が生じたからです。堅さは3番目の要素として考えても良いと思います。

 温度差を感じて変化する特性を利用して、羽化させたい時期に温度を下げて冷やせば温度を上げた時に羽化のスイッチが入る筈です。最大体重の時に温度を下げて試してください。
 入れ替えの時期は早くても遅くてもだめで、その幅は2〜3日位だと思います。タイミング良く入れ替えると数日で幼虫が大きくなるのが分かる程です。今までジッとしていた幼虫が坑道を掘りながら急に移動した時が入れ替えの時期になりますが、かなりの観察が必要となります。
 全体的には菌糸の劣化が激しいのに部分的に良い所があり幼虫が動かない時は、幼虫の居る所まで菜箸等で穴を開けて水を少し入れると幼虫は必ず動くので、その時を狙って入れ替えると良い結果が得られます。
 幼虫を入れる替える菌糸ビンの温度は、今まで幼虫が入っていた菌糸ビンより2度から3度位低い方がよく、時期にもよりますが蛹になることをかなり防ぐことができます。
 しかし、3齢後期の幼虫で何回も実験した結果、羽化することを忘れてしまったかの様に見える幼虫も居るので、良く観察して、タイミングを図り、やり過ぎに注意して下さい。
 羽化する温度は大型でも小型でも菌糸ビンの温度が約22〜24度位が良いように思われます。大型ほど羽化に時間がかかり、温度を上げ過ぎると酸欠を来す恐れがあるので28度は絶対に越してはいけません。
 又、温度が18度位を下ってくると菌糸が子実体(きのこ)を作り、菌糸ビン内部の水分が減って乾燥してくるので注意して下さい。
 菌糸だけの飼育では幼虫の殆どが自己最大サイズに成ることが出来ないと思われますので、必ずバクテリア等の動物性微生物を応用することが望まれます。 ....