飼育結果のまとめ

体内の水分
 顕微鏡で幼虫の糞を調べて分かったことは、食べている餌の水分量が幼虫の大きさに非常に影響します。大きく成れた幼虫の糞は水分量が驚く程多く、体内の水分量が少ない幼虫は大きく成ることができない様です。つまり、タンパク源に成るバクテリア等が幼虫の体内で繁殖(細胞分裂)する為には多量の水が必要だと言うことです。
 一般に言われている様に、”餌の水分量が多いと縮む”という考え方は評価の仕方に勘違いがあることを確認しました。タンパク源となる多量のバクテリア等を体内に保有することの必要性を認識するべきだと思います。おそらく、水分量の多い菌糸ビンは気温の高い時期には腐敗が速く進むので、それを避ける為の方法として行われたと推測できます。
 しかし、バクテリア等の褐色腐朽菌に支配された後の菌糸ビンは、水分量が多くても腐敗することが殆ど無いので長期間の使用が可能で交換の回数が極めて少なくなります。幼虫の飼育に適した状態が長く続きますので、大型作出の確率が非常に高くなります。

マットの成分
 幼虫が食べる餌の中に、糖類、特にデンプンが含まれているとpHが低下して、セルロース分解菌の活性が損なわれます。マット等の長時間の使用を考えると易利用性の糖類は含まれていない方が安定します。従って、幼虫の栄養に成ると言う安易な考えだけで添加剤と称する栄養剤?を使用することは総合的に判断すると避けた方が良い場合があると思います。結果として、大きな成虫が羽化すれば良いのであって、1年間と言う飼育時間を考慮せず、その時だけを見て飼育を行うことは非常に不利なことだと考えられます。

鉄分について
 鉄分が多く含まれている”しその葉 ”を幼虫に食べさせたところ、その全部が4ヶ月位で小さいまま羽化してしまい、”鉄分の錠剤 ”を水に溶かして幼虫が食べているマットに染み込ませた場合と同様に羽化の時期が早くなりました。
 まだ、確かではありませんが、餌の中に含まれている鉄分が多いと体内で何らかの反応が起こり、羽化の引き金になると推測できますので、大きな幼虫にする為には使用する水の成分に注意が必要だと思われます。
 
硬度の低い自然水が良いでしょう。
ヒント:羽化させたい時に鉄分を与えれば成虫にすることができると考えられます。

重さと大きさの比較
幼虫の重さ 蛹の重さ 成虫の大きさ 成虫の重さ 羽化日
1 40g 25.4g 82mm 15g 4/6
2 40.8g 24.6g 81mm 14.8g 4/17
3 38g 25.4g 82mm 16g 4/17
4 38.8g 25g 81mm 16.2g 4/27
5 41.4g 26.4g 84mm 16.6g 4/27
幼虫の重さは入れ替えた時の重さなので最大値ではありません。
成虫の重さは2001年5月2日に量りました。
成虫の長さは、小数点以下を切り捨てにしてあります。

参考値
アンタエウス 幼虫 成虫
菌糸ビン 40g 22g 77mm
バクテリアビン 40g 25g 81mm
国産山梨 幼虫 成虫
菌糸ビン 27.5g 22.3g 79mm
バクテリアビン 28g 24g 81mm

幼虫の重さと成虫の大きさ
 菌糸だけの飼育とバクテリアビンを利用したインドアンタエウスの飼育では、幼虫の重さが同じでも蛹に成る時に2〜3gの違いが生じ、成虫の大きさに違いが出ることが分かりました。結果として、菌糸ビン飼育で40gの幼虫は蛹の重さが23g位で25gを越すことが殆どありませんが、バクテリアビンを利用した飼育では26gに達することができます。蛹の重さが1g増えると成虫は約2mm大きくなりますので、同じ40gの幼虫で成虫の大きさが5mm以上も違うことになります。
 現に、菌糸ビン飼育で38〜40gの幼虫は、その殆どが76〜78mmで80mmを越すことがありませんでしたが、バクテリアと菌糸を利用したバクテリアビンの飼育に於いて40gの幼虫は82mm以上の成虫に成ることができます。
 
体内の状態(成分)が成虫の大きさに非常に影響することが分かりました。

重さの評価
 食べさせている餌の内容が異なれば同じ重さの幼虫でも成虫の大きさに違いが生じますので、
幼虫の重さを評価しても意味のないことが分かりました。確かに重たい方が大きな成虫に成ることができますが、それは同じ餌を与えている時の比較に限ると思います。成虫の大きさは与えている餌の内容が反映されますので、餌が異なれば小さな幼虫が大きな成虫に成ることができます。

[
体内の成分]
 幼虫の時に、外骨格になる成分を体内に如何に多く蓄えるかが問題なので、只単に
幼虫が大きいからと言って大きな成虫に成るとは限りません。つまり、クワガタムシは完全変態なので蛹化の時に不要なものは、全て体外に排泄してしまうと思われるので、幼虫の大きさが100%反映されないと言うことです。
 従って、体内の同化率が高ければ、
小さな幼虫が大きな幼虫より大きな成虫に成ることができると言えます。

幼虫の縮み
 幼虫は蛹室を作る時に体をU字に曲げて大きさを測り蛹室の大きさを決めます。当然、蛹に成った時の縮みを計算する筈で、もし予測に反して縮みが少なかった場合には蛹の大きさに比較して小さな蛹室に成ってしまいます。バクテリアビンの殆どが蛹の大きさに比較して蛹室が小さい傾向にありました。
 このことは、
バクテリアビンで育った幼虫は蛹に成る時の縮みが非常に小さく、幼虫が勘違いする程大きな蛹に成ると言うことを意味しています。

羽化不全
 遺伝的な欠損を除いて羽化不全の原因は、その殆どが蛹室の大きさと蛹室内の水分であると言えます。
 蛹室が小さい場合には、蛹を掘り出してからスプーン等で蛹室を大きくして入れ直すか、又はアレンジメントフラワーで使用するオアシス等で作った人工蛹室に移してください。
 水分については、蛹が羽化する時に7cc〜9cc位の体液を出すので、蛹室の吸水性が悪いと羽化した成虫の上羽が蛹室にくっついてしまいます。通気性の悪い容器を使用した場合、蛹が大きく成れば成る程、体液による羽化不全が増えます。
 注意してください。

水分による羽化不全
 人工蛹室に入れたインドアンテの蛹にスプレーで水を掛けて蛹室を湿らせて羽化させたところ、2頭共上羽に変形が見られました。82mmの方は軽微でしたが、77mmの方は羽がグシャグシャに成り損傷がひどく可哀相でした。又、蛹室の吸水性が悪いと体液を出しきれずに腹部が異常に膨れている様にも見受けられました。私は、羽化する前にティツシュペーパー等で水分を吸い取り乾いた状態で羽化させます。羽化不全は殆どありません。

底穴の必要性
 通常、一般の菌糸ビンは底に穴の開いていない容器を使用しているので空気の流通が悪く、幼虫の呼吸困難を来す時があります。増して、バクテリア等の微生物が高密度で繁殖すれば当然多量の空気が必要になります。そこで、私達は簡単に穴を開けることができるプラボトルを使用して、底に3mm位の穴を少なくとも2〜3ヶ所設けて空気の流通を確保することにしました。ビン内の移動が減り暴れることが少なくなります。
 幼虫の大きさにとても影響します。

[
卵出しの必要性
 国産、外国産を問わず、材に産んだ卵は孵化しない内にバクテリアマットに移してください。材の中で2齢まで育った幼虫は最大サイズを狙うことが困難になります。おそらく、最大サイズには成れないと思われます。
 バクテリア等の密度が高いマットを初齢の時に体内に充填することはたいへん重要です。特に国産の幼虫は縮みが少ないので初齢からの影響が大きいと推測できます。

風通し
 バアクテリアビンが置いてある環境の”風通し”が幼虫の成長に影響します。このことは、バクテリアビンに風があたることにより、内部に溜まったガス(炭酸ガスやアンモニアガス等?)が入れ替わり易いからだと推測できます。又、バクテリアビンが乾いていく方向で加水しながら飼育した幼虫の方が確実に大きくなりますので扇風機等を使用して常に風を送ってください。空気の流れが幼虫の成長に大変影響します。